shyumahaのブログ

海外でリーダーシップを発揮して働くために、私が海外勤務経験から得た体験記を記しています。

87.海外でリーダーシップを発揮して働くために

―コラム(交渉時の私の前準備)―

出先の営業所長という立場は、非常に微妙である。最終意思決定者ではないが、

1営業所の責任者なので、管轄エリアのお客さんとの折衝(だいたいクレームや、

きつい要望が多い)の前面にたたなくてはならない。

 

だが最終意思決定者ではないので、なんでもかんでも勝手に決めるわけにはいかない。

かといって、常に持ち帰って本社の社長にお伺いしますなどというのでは、先方も時間の

無駄なので、最初から社長が出てきてくれとなる。これでは営業所の責任者として、

お客さんと信頼関係を築いてビジネスを進めていくことなどできない。

 

私は、以下のことに留意して、ハノイ本社の社長(私の上司であると同時に最終意思決定者)

とコミュニケーションしていた。

・      Hanoi出張時や電話などで、できるだけ時間を作って、こちらの情報を伝えておく。

必要なときには、現場に来てもらう場をつくり、現場感を掴んでもらう。

・      現状を伝え、今後の打ち手について仮説を伝えておき、こちらの考えを理解してもらっておく。

・      しっかり営業しており、当社スタッフともコミュニケーションをしていると、あるお客さんが

交渉に来るときは、その理由や背景がわかるので、その真意を掴んでおき、社長に事前に

対応案とその理由を3つぐらい述べておく。

・      交渉の事前に、こちらから出した3つの対応案を社長から承認がもらえるかどうか

聞いておき、3つともOKなら、その中で交渉してくる権限をもらっておく。だいたい1,2,3と

当社の譲歩案が大きくなるイメージ。

・      社長が3つではなく、1や2で交渉してきてくれ。という場合は、その中で交渉する努力をする。

ただし、もめそうなことは事前にわかるので、1,2で交渉決裂の場合は、社長に出てきてもらう

お願いをしておく。

 

上記のようなことを行っておくと、大抵のことは、うまく収まる上にお客さんからの信頼も獲得できる。

また交渉は常に想定どおりにはいかないので、1,2,3案の内、2と3の間や、3を少し出てしまう

ような悩ましい提案が先方からでることもある。

 

しかし、社長と上記のやり取りをしているので、こちらは、社長の根本の考え方がわかっている上、

社長もこちらの背景を理解しているので、えいやっとその場で判断し、社長に事後報告しても

そう大きな問題にはならなかった。すべてはコミュニケーションがキーだと思う。

 

ただし、要請しても現場に来てくれない社長や、権限は全く渡さず、コミュニケーションも薄く、

本社から現場感の全くない指示するのみの社長では、まったく話にならず、現場が疲弊する

だけなので、よくよくトップの人は考えてほしいものである。

 

幸い私のつかえた2人の社長は非常に人格者だったので、よく助けてもらい今でも感謝している。

こういう人には、ますますついていこうと思うものである。

86.海外でリーダーシップを発揮して働くために

また当社がホーチミンに自社倉庫を持つことにより、これを有効活用するために、

2010年から地理的に近いカンボジアも営業開拓をした。

 

代理店も1社つくり、私はカンボジアでもビジネスを行うことになった。現在売上は

それほど大きくないが、コンスタントに売上が出るようになっている。

このカンボジアへの出荷拠点は、設置したホーチミン倉庫からであり、1日あれば

カンボジアまで配送可能だ。

売上はさらに順調に伸び、2011年は以下の業績であった。

 

85.海外でリーダーシップを発揮して働くために

最終の交渉

上記のように社内の意思も統一した上で、社長同行で交渉に臨む。

営業所長は何でもかんでも社長にお願いしていては意味が無い。

 

ここぞというときに社長に依頼する筋道やストーリーを組み立てておく必要がある。

また社長も面倒くさいとは思わずに、常に部下とコミュニケーションしておき、

外に出るべきタイミングを図っておく必要がある。

 

この日は14時から代理店で交渉が始まった。こちらは社長が来ているので、

最初は当たり障りの無い挨拶、和やかなムードで始まる。

だが、本題も中核に差し掛かると、激しいやり取りとなった。

 

まあ今まで私が交渉してきたことの蒸し返しが中心だ。社長にはすべてこれまでの

交渉内容も伝えてあるので、びっくりする内容は無い。

 

社長も今までの感謝の気持ちを相手に伝えつつ、当社のあずけ在庫廃止の意思

をはっきりと主張する。社長からは、『当社倉庫から、代理店倉庫までの配送を負担する。

ただし、その分地方への配送サポートは、減額する』。という最終提案がされた。

 

代理店も、今まで交渉してきて、さらに今回は社長まで来ているので、当社の意志は

固いこと。リスクは多少増えるが、決定的なダメージには至らないであろう事から、

渋々認める方向になってきた。

 

ただ、彼らはここからさらに、粘ってきた。以下の譲歩案を突きつけてきた。

・      この案は、承諾するが、実行まで2年待ってほしいこと。

→私は待っても1年という意見。

・      あずけ在庫で長年たまった売れていない在庫をすべて引き取ってほしいこと。

→条件付で引き取る。1年以上前の在庫は引き取れない等。

 

この後もいろいろやり取りがあったが、結果は、2年待つ。売れない在庫は1年以内の

在庫は引き取るが、それ以上の在庫は引き取らないことで決着した。

 

まあ、この交渉を甘いと判断する方もおられると思うが、結果的に今は、

スムーズに出荷時点で売上計上ができ、代理店も大きな混乱無く業務を継続している。

 

経費も、ハノイから陸送していたのを、船便に変えて当社ホーチミン倉庫まで運ぶようになった。

これで陸送より経費の節約が可能になった。また、在庫も無駄な在庫の削減が進み、

キャッシュフロー改善に多少でも貢献したと思っている。

 

84.海外でリーダーシップを発揮して働くために

こういう仕組みも含めて、ハノイ本社の社長へ以下報告した。

 

・      あずけ在庫は廃止する必要があること。ただし、代理店はこの種の利権を

奪い取られるだけでなく、キャッシュフローのリスクも多少は負う必要があること。

そういう意味で言うと、当社が倉庫を持つだけでなく、彼らのホーチミン倉庫や

地方への倉庫までの配送は、当社が負担する検討が必要であること。

 

ただし、当社が地方へ配送する分、その地方への代理店への配送サポートは

減少させる必要があること。そのプラスマイナスを算定しておくこと。

 

・      重い課題だが、当社として必ず進めなければならないので、社長もこの

交渉へ参加いただき、当社のトップ決定であることを伝えていただくこと。をお願いした。

 

当社の社長は、快諾してくれただけでなく、以下のことを教えてくれた。

・      プラスマイナスの損得だけでなく、中長期的に考えると、当社が持つべき機能

は当社が持ち、当社が自前で行うので、代理店は代理店の努力で行うべきことは

おこなってもらうという風土を醸成すること。なんでもお願いして、サポートを増やす

などという構図はなくしていくこと。

 

・      コストは多少かかるかもしれないが、こういうことを当社が負担することによって、

代理店さん含む流通業者が他メーカーに乗り換えられない差別的優位性を持つことができる。

というところまで考えてくれた。さすがは社長である。

83.海外でリーダーシップを発揮して働くために

ホーチミンに帰ってから、当社スタッフに例の数えない在庫のことを聞いてみた。

やはり、彼らは知っていた。知らないのは日本人だけだった。

 

本社の日本人も知らなかった。やはり、現地語をしゃべれないこと、現地で数年

やったぐらいでは本当の現実を知ることはできないなと改めて思った。

 

ただ、ここでも最初良くわからなかった。当社のスタッフは、『当社が売上のカウントに

彼らの倉庫に行くと、数えない在庫の方へ移し変えている』。という説明をしてくれた。

 

ここで私はまたも?意味がわからないな。。。と頭を抱え込んだ。私『本当に数えないの?』。

『いや1年に1回年末に数える』。頭の悪い私は2週間ぐらいうんうん考えた挙句、ある日思いついた。

 

つまり、年初にできるだけ早く数えない在庫分を売っておき、年末に残った在庫分から、

数えない在庫分に移し変える。例えば、4つが数えない在庫分であるなら、その4つ分は、

年初に売る。でもこの枠分は売上カウントされないので、請求もされない。

 

そして、年末にいわゆる数えない在庫分に移し変えておく。結果的にこの分は、非常に支払い

サイトの長い、最長約1年の支払いサイトとなる。そういうことか?とスタッフに聞いた。

スタッフはその通りとのこと。この1年に1回数えるということが、特権枠であった。

 

なるほど、こんな巧妙な仕組みがあったのか。

おそらく私や他の日本人が知らないいろいろな利権がこのほかもあるのだろう。

 

あずけ在庫を廃止するとこういう目に見えない(といっても日本人に見えていないだけ)

様々な利権が、すべて無くなる。こういうことが本当の理由かもしれない。

 

私はそのように思った。ちなみにこれを私の下手な英語力でコミュニケーションするのは

本当に骨が折れた。

82.海外でリーダーシップを発揮して働くために

代理店社長『あずけ在庫では、数えないあずけ在庫がある。それはどうする?』。?

数えないあずけ在庫?なんだそれ?初めて耳にする言葉だ。私の英語力の問題も大だが、

こういうときは紙と鉛筆で絵を双方が書きながら、しゃべるに限る。代理店は、こんな絵を描いてきた。

左記の赤括弧のような、あずけ在庫があり、これを数えないということ。。。 

え?それではこの分は、当社は損しているということ。?。。。。

言い換えれば、代理店にサポートしているということ?

 

なんとなく図と説明で意味はわかったが、どうしてこのようなものが存在するのか

理解できなかった。彼らは、代理店が倉庫を新たに作ったりした際の、サポートとして

こういう権利をもらっている。といっていた。そう、当社が認めたサポートということになっていた。

 

 

彼らは、キャッシュフローのリスクもあるが、それよりもむしろ、こういった権利が

なくなるのが痛いと感じていると確信した。

しかし当社からすると、冗談ではない。売上達成のリベート、地方配送のサポートや、

台数達成のサポートもある上に、こういう隠れた(日本人が認識していないだけ)サポートがあると、

利益への影響が大きいだけでなく、なおさら財務の正確性が損なわれる。

やはりあずけ在庫は、なくさなければならないと確信した。

 

この後も、いろいろやり取りが続くが、なかなか話が決まらない。私はあずけ在庫を廃止したい。

代理店は続けたいで完全な平行線だ。

メーカーとして強権的にやりたい衝動に何度も駆られたが、相手の立場に立ってみるとやはり、

長年のやり方を変えることになるので、議論は徹底的にし尽くした方がいいと思い。

19時まで続いた交渉を終えて、1人暗くなった空の中、ホーチミンの帰途に着いた。

 

81.海外でリーダーシップを発揮して働くために

第2回目交渉

2回目の交渉は、午後3時から開始した。このとき私は、1人で代理店に伺った。

彼らは英語がしゃべれるし、1回目の交渉で大体論点がわかっていること。

あまりぞろぞろスタッフを連れて行くと、彼らも本音で話しにくいだろう。という思いからだった。

 

ただ、相手は社長以下、幹部も入れて全部で4人となる。4人対1人なので、結構なプレッシャーだ。

果たして、ここでは核心に触れる話が聞けた。といっても正確に言うと、後になってわかったということだ。

 

以下は、そのやり取り概要だ。

私『前回に続いて、あずけ在庫の廃止をお願いしたい』。『我々代理店にとっては、

大きなダメージだ。売上が下がるかもしれないよ』。『売上が下がるということは、

どういうことでしょうか?当社が倉庫を近くに持つので、少なくとも売上予算分は

大きな問題は無いはず』。

 

『代理店としては、キャッシュフローのリスクが大きくなり、リスク回避から、

結果的にメーカーから買う量が減る可能性があるということだ』。なるほど、私は、

それは確かにあるかもしれない。しかしその影響は、我々が販売店に常に魅力

のある政策を提供することと、営業努力を怠らなければ大きなダメージは無いと思った。

 

なぜなら、販売店から注文がどんどん回転すれば、代理店は実オーダーを受けることになり、

代理店のキャッシュフローリスクも軽減されるからだ。

 

そう思い、『確かに多少は出るでしょうが、その分、当社は販売プロモーションの更なる充実、

政策の充実、生産能力の増大を適切に行います。それがひいては代理店さんのリスク軽減

にもつながると思います。だから大きなダメージはおそらく無いでしょう』。とお伝えした。

 

しばらく、やり取りがあった後、核心に触れたのはその後のやり取りだった。